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かっちゃんのこと
・・・・・September9
 

『なまけものの王様とかしこい王女のお話』
ミラ・ローベ作、ズージ・ヴァイゲル絵、佐々木田鶴子訳 、2001年、徳間書店

[内容紹介]
  ある国にナニモセン五世という大変なまけものの王様がいました。365日、たらふく食べては寝、食べては寝ての繰り返し、333人の家来たちに何もかもやってもらっているので、自分の足で歩くこともできないほど太っています。
 一方、この王様の一人娘ピンピは王様とは対照的。走り回ったり、遊んだり、朝から晩までのみみたいにはねまわっています。
 さて、ある日王様は病気になってしまいました。国中のどのお医者様も治せないほど重い病気です。ピンピは自分でお医者様を探しに、訪ね歩きます。そして森の中、ガウデオという羊飼いの少年に出会い、彼のおじいさんからナマケモノ病の治し方を教えてもらうのです。ピンピとガウデオは知恵を出し合って王様を森に誘い、いつしか王様はすっかりハタラキモノになって、自分の力でナマケモノ病を治してしまいます。

 

   

かっちゃんのこと (たまちゃん)

 3年生のかっちゃんはまるでピンピを男の子にしたような活発な子です。ピンピそっくりに、小さくて、マッチ棒のようにやせていて、一時もじっとしていられないほど、学校中をはね回っています。
 昆虫や動物、草花が大好きなので、一日中外で生き物を追いかけまわしています。校庭でくわがたやかまきり、ちょう、カナヘビやトカゲなどを拾ってきては教室に持ち帰ってきます。かっちゃんのおかげで、教室はいつも生き物の宝庫となり、子どもたちは大喜びです。
 またかっちゃんは、もの作りが大のお得意。どこかから、わけのわからないものを拾ってきては、組み合わせておもちゃを作ったり、道具を作ったりしています。木っ端や針金、金具や紙、プラスチックなどなど本当に得体の知れない小さなガラクタが、かっちゃんの手にかかると、たちまち面白いモノに変身してしまいます。

 こんな調子ですから、授業中だってまともに席に座っていたためしがありません。休み時間に外で興味のあるものを見つけたら、鐘が鳴ろうと、みんなが教室に戻ろうと、彼にはいっさい関係ありません。授業が始まっても教室に帰ってこようはずがありません。また、教室にいても、窓からとんぼが見えたら、いつの間にやらすーっと教室から逃げ出しています。
 そんなかっちゃんですから、この『なまけものの王様とかしこい王女のお話』(ミラ・ローベ作、ズージ・ヴァイゲル絵、佐々木田鶴子訳 、徳間書店)のピンピの行動を理解するには、なんの説明もいらなかったでしょう。読み語り始めてすぐ、かっちゃんは身を乗り出してお話に耳傾けるようになりました。
 特に、ピンピがいたずらをして走り回るその後を、大勢の女官たちが
「ピンパーネッラ王女さまー、王女さまがそんなことをなさってはいけませーん!」
と叫んで追いかけまわす場面では、かっちゃんは気持ちよさそうにケタケタ笑います。きっと、私たち教師が「かっちゃーん、教室にもどりなさーい!」と息を切らしながら追いかけてくるその様子とそっくりで、おかしかったのでしょうね。私もピンピに振り回されている女官の姿と、へっぴり腰でかっちゃんを追いかけている自分の姿が重なって、思わず笑ってしまいました。

 でも、かっちゃんはただ落ち着きがないだけのわがまま坊主では全然ありません。実は敏感で、周りの友達や大人にけっこう気を遣う優しい子なのです。
 かっちゃんの家は大きな有名呉服屋さん、お父さんとお母さんは二人とも六十才ちかいご高齢のご両親です。かっちゃんは生まれてまもなく、わけあってこのご両親の養子になりました。血のつながっていない親子ですが、お父さんもお母さんも我が子と思って、本当に愛情深く育ててくださっています。けれども、支店もたくさんかかえているので、お父さんは経営主としてのお仕事に忙しく、お母さんも毎日あちこちのお店を回って、指導をしなくてはなりません。かっちゃんは遊びから帰ると、棟続きのお店で、親戚や使用人の大人たちに相手をしてもらいながら、過ごします。このようにかっちゃんは、親戚の人たち、従業員、お客さん、取引先等たくさんの大人たちと日々接しながら暮らしているです。大人同士の会話や人間関係に敏感にならないはずがありません。

 ですから、ピンピが、333人の召し使いたちとの暮らしの中で、実はいろいろな心配事をしたり、人間関係の本質を見抜いていたり、心を痛めていた気持ちがかっちゃんにはわかったのかもしれません。王様のお付きのもののいいかげんな対応に腹を立てたり、王様が病気になったとき「本当は誰も心配してないくせに。」などとつぶやいたり、王様の太りすぎを見て、「僕のおかあさんも太りすぎなんだ。」とピンピ同様大変心配していました。
 考えてみれば、かっちゃんもピンピと同じ立場だったのです。ピンピが王女ならかっちゃんは大店の若旦那。羽目をはずしすぎるくらいのびのびした闊達さは、大勢の大人に囲まれた窮屈さや大人の世界の裏表に敏感にならざるを得ない環境への反動だったのかもしれません。その証拠に、かっちゃんは、私が失敗した時、職員室の人間関係をあれこれ考えて、懸命に気を遣って、私をかばってくれるような子でした。
 さて、かっちゃんは、ピンピがガウデオや羊飼いのおじいさんと出会った場面あたりから、次がどうなるのか知りたくて知りたくてたまらなくなってしまったようです。とうとう自分で図書館に行って、この本を借りてきて、持ち帰るや否や一気に読みきってしまいました。じっとして読書することなど縁遠かったはずのかっちゃんが。最後まで読み切ってようやくほっとしたのか、かっちゃんは、翌朝からの私の読み聞かせには、実にほっとした様子で聞き入っていました。きっと王様が元気になり、少ない人数の召し使いで十分幸せな生活ができるというラストを知ったので、安心してもう一度お話の世界を楽しむことができたのでしょうね。

 それにしても、家庭環境がどうであれ、かっちゃんが素直で優しい子に育っているのは、やはり、かっちゃんを心から大切に育ててくれているご両親のおかげではないでしょうか。ピンピを取り巻く環境が普通の家庭の子どもといかに異なっていようと、ピンピが思いやりのある素直な子なのは、「王さまが、ピンピをとってもとってもかわいがっていた」からにほかならないのと同じように。だって、王様は一人では何もできない時でさえ、丸くて高い塔のてっぺんにあるピンピの部屋へ、毎晩、息も絶えだえ登っていたのですから。たった一言ピンピに「おやすみなさい。」を言いたくて、ね。

 

 

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『ひとうちななつ』
グリム童話、らくだ・こぶに 再話、
ラボ教育センター
、1978年

卑怯? 勇敢? 仕立屋の大活躍!
 仕立屋が朝めしまえに仕事をしていると、ハエがぶんぶん。仕立屋はこいつらを布きれでひとうち。するとまあ、7匹ものびていた。自分のたくましさに感心した仕立屋は、「ひとうちななつ」と刺繍した帯をしめて、冒険に旅立った。

(なすだ)

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